書名	出雲国風土記
記事名	諸々の山野に在るところの草木など
成立年代	733
その他	各々の郡について、概説し、郷･里･駅･寺社などを記した後、山を記し、続いて産する草木と禽獣などを記す。　ここには、書中に記される植物名を抄出する(ただし海藻を除く)。 　テキストは『日本古典文学大系』本により、今日の和名への比定は、同書のほか、荻原千鶴『出雲国風土記 全訳注』(講談社学術文庫,1999)･松田修『植物世相史』(1971)などによる。

意宇(おう)郡
	「凡(すべ)て、諸々の山野(やまの)に在るところの草木は、麦門冬・独活・石■{草冠に斛}・前胡・高良薑・連翹・黄精・百部根・貫衆・白朮・薯蕷・苦参・細辛・商陸・藳本・玄参・五味子・黄芩・葛根・牡丹・藍漆・薇、藤・李・檜・杉〔字或は椙に作る〕・赤桐・白桐〔字或は梧に作る〕・楠・椎・海榴〔字或は椿に作る〕・楊梅・松・栢〔字或は榧に作る〕・蘗・槻なり。」 　そのほか、檀・芹菜・多年木・宇竹・真前蔓・莘・都波・師太・比佐木・蕨・永蓼。
嶋根(しまね)郡
	「凡て、諸々の山に在るところの草木は、白朮・麦門冬・藍漆・五味子・独活・葛根・薯蕷・萆薢・狼毒・杜仲・芍薬・茈胡・苦参・百部根・石斛・藳本・藤・李・赤桐・白桐・海柘榴・楠・楊梅・松・栢なり。」 　そのほか、蒋・茅・莎・蕗・麻・芋・芋菜・薺頭蒿・都波・橿・葦・小竹・茨・苡。
秋鹿(あいか)郡
	「凡て、諸々の山野に在るところの草木は、白朮・独活・女青・苦参・貝母・牡丹・連翹・茯苓・藍漆・女委・細辛・蜀椒・薯蕷・白歛・芍薬・百部根・薇蕨・薺頭蒿・藤・李・赤桐・白桐・椎・椿・楠・松・栢・槻なり。」 　そのほか、蘿・荻・葦・茅・蒋・菅・荷蕖。
楯縫(たてぬい)郡
	「凡て、諸々の山に在るところの草木は、蜀椒・藍漆・麦門冬・茯苓・細辛・白薟・杜仲・人参・升麻・薯蕷・白朮・藤・李・榧・赤桐・白桐・海榴・楠・松・槻なり。」 　そのほか、栢・菜・芋。
出雲(いづも)郡
	「凡て、諸々の山野に在るところの草木は、萆薢・百部根・女委・夜干・商陸・独活・葛根・薇・藤・李・蜀椒・楡・赤桐・白桐・椎・椿・松・栢なり。」 　そのほか、楠。
神門(かむど)郡
	「凡て、諸々の山野に在るところの草木は、白薟・桔梗・藍漆・龍膽・商陸・続断・独活・白芷・秦椒・百部根・百合・巻柏・石斛・升麻・当帰・石葦・麦門冬・杜仲・細辛・茯苓・葛根・薇蕨・藤・李・蜀椒・檜・杉・榧・赤桐・白桐・椿・槻・柘・楡・蘗・楮なり。」 　そのほか、柂・枌。
飯石(いひし)郡
	「凡て、諸々の山野に在るところの草木は、萆薢・升麻・当帰・独活・大薊・黄精・前胡・薯蕷・白朮・女委・細辛･白頭公・白芨・赤箭・桔梗・葛根・秦皮・杜仲・石斛・藤・李・椙・赤桐・椎・楠・楊梅・槻・柘・楡・松・榧・蘗・楮なり。」 　そのほか、塩味葛・紫草。
仁多(にた)郡
	「凡て、諸々の山野に在るところの草木は、白頭公・藍漆・藳本・玄参・百合・王不留行・薺苨・百部根・瞿麦・升麻・抜葜・黄精・地楡・附子・狼牙・離留・石斛・貫衆・続断・女委・藤・李・檜・椙・樫・松・栢・栗・柘・槻・蘗・楮なり。」 　そのほか、塩味葛・紫草。
大原(おおはら)郡
	「凡て、諸々の山野に在るところの草木は、苦参・桔梗･■{草冠に吾}茄・白芷・前胡・独活・萆薢・葛根・細辛･茵芋・白前・決明・白薟・女委・薯蕷・麦門冬・藤・李・檜・杉・栢・樫・櫟・椿・楮・楊梅・槻・蘗なり。」 　そのほか、枌。

漢字	漢音	訓	植物和名
椙	(国字)	すぎ	スギ
樫	(国字)	かし	カシ
苡	い	おほばこ	オオバコ
葦	い	あし	ヨシ
茵芋	いんう	につつじ	ツルシキミ
芋	う	いへついも	サトイモ
芋菜	うさい
宇竹	うちく	おほたけ	ハチクまたはマダケか
永蓼	えいりょう	ながたで	ヤナギタデ
塩味葛	えんみかつ	えびかづら	エビヅル
王不留行	おうふりゅうこう	かさくさ	ヒメケフシグロ
檜	かい	ひのき	ヒノキ
海石榴(海柘榴)	かいせきりゅう	つばき	ヤブツバキ
海榴(椿)	かいりゅう
荷蕖	かきょ	はちす	ハス(717以降)
葛根	かつこん	くずのね	クズ
菅	かん	すげ	スゲ
貫衆	かんしゅう	おにわらび	ヤブソテツ
槻	き	つき	ケヤキ
桔梗	きつこう	ありのひふき	キキョウ
橿	きょう	かし	カシ
芹菜	きんさい	せり	セリ
苦参	くしん	くらら	クララ
瞿麦	くばく	なでしこ	カワラナデシコ
蕨	けつ	わらび	ワラビ
決明	けつめい	えびすぐさ	エビスグサ
玄参	げんしん	おしくさ	げんしんを参照
巻柏	けんはく	いはくみ	イワヒバ
梧	ご	あをぎり	アオギリ
黄芩	こうきん	ひひらぎ	コガネバナ
黄精	こうせい	おほゑみ	ナルコユリ
藳本	こうほん	さはそらし	カサモチ
高良薑	こうりょうきょう	かうらはじかみ	クマタケランまたはハナミョウガか
五加	ごか	むこぎ	ヤマウコギ、一説にウコギ
五味子	ごみし	さねかづら	サネカズラ
莎	さ	くぐ	カヤツリグサまたはハマスゲ
菜	さい	な
柴胡(茈胡)	さいこ	のぜり	ミシマサイコ
細辛	さいしん	みらのねぐさ	ウスバサイシン
杉(椙)	さん	すぎ	スギ
茨	し	はまひし	ハマビシ
紫草	しそう	むらさき	ムラサキ
師太	したい	しだ	ウラジロ
柘	しゃ	つみ	ヤマグワ
芍薬	しゃくやく	えびすぐすり	シャクヤクまたはベニバナヤマシャクヤク
女委	じょい	ゑみくさ	ボタンヅルまたはアマドコロ
松	しょう	まつ	マツ
蒋	しょう	まこも	マコモ
小竹	しょうちく	しの	ササ
升麻	しょうま	とりのあしぐさ	サラシナショウマ
商陸	しょうりく	いをすぎ	ヤマゴボウ
蜀椒	しょくしょう	なるはじかみマタハふさはじかみ	サンショウ
女青	じょせい	かはねぐさ	ヘクソカズラ
続断	しょくだん	やまあざみ	ナベナ
薯蕷	しょよ	やまついも	ヤマノイモまたはナガイモ
莘	しん	みらのねぐさ	ウスバサイシン
秦椒	しんしょう	かははじかみ	フユザンショウ
人参	じんしん	かのにけぐさ	トチバニンジンまたはオタネニンジン
真前蔓	しんぜんまん	まさきかづら	マサキノカズラ
秦皮	しんひ	とねりこのき	マルバアオダモまたはコバノトネリコなどのトネリコ類
椎	すい	しひ	シイ
薺苨	せいでい	さきくさな	ソバナ
薺頭蒿	せいとうこう	おはぎ	ヨメナか
石葦	せきい	いはかしは	ヒトツバまたはウラボシ
石斛	せきこく	いはくすり	セッコク
赤箭	せきせん	かみのや	オニノヤガラ
赤桐	せきとう	あかぎり	不明。アブラギリか
前胡	ぜんこ	のぜり	ノダケ
柂	た	ひのき	ヒノキ
大薊	だいけい	おほあざみ	モリアザミか
多年木	たねんぼく	あはぎ	不明。モチノキまたはアオキか
檀	だん	まゆみ	マユミ
地楡	ちゆ	ゑびすねマタハあやめたむ	ワレモコウ
楮	ちょ	かぢ	カジノキまたはコウゾ
椿	ちん	つばき	ヤブツバキ
荻	てき	をぎ	オギ
藤	とう	ふじ	フジ
当帰	とうき	やまぜり	トウキ
独活	どくかつ	つちたち	ウドまたはシシウド
杜仲	とちゅう	はひまゆみ	マサキまたはハイマユミ
都波	とは	つは	ツワブキ
楠	なん	くすのき	クスノキ
貝母	ばいも	ははくり	バイモ
栢(榧)	はく	かへ	カヤ
蘗	はく	きはだ	キハダ
白芨	はくきゅう	かがみ	シラン
白芷	はくし	よろひぐさ	ヨロイグサまたはハナウド
白朮	はくじゅつ	をけら	オケラ
白前	はくぜん	のかがみ	フナバラソウ
白桐(梧)	はくとう	あをぎり	キリ
白頭公	はくとうこう	おきなぐさ	オキナグサ
麦門冬	ばくもんとう	やますげ	ジャノヒゲ
白薟	はくれん	やまかがみ	ガガイモか (一説にカガミグサ)
抜葜	ばっかつ	さるとり	サルトリイバラ
榧	ひ	かへ	カヤ
薇	び	わらび	ワラビ
萆薢	ひかい	ところ	オニドコロまたはヒメドコロ(エドトコロ)
薇蕨	びけつ	わらび	ワラビ
比佐木	ひさぼく	ひさぎ	キササゲまたはアカメガシワ
百合	ひゃくごう	ゆり	ササユリなど
百部根	ひゃくぶこん	ほとづら	ビャクブか
茯苓	ふくれい	まつほど	ブクリョウ
附子	ふし	おう	トリカブト
枌	ふん	すぎ	スギ
牡丹	ぼたん	ふかみぐさ	ボタン、またはマンリョウの類か
麻	ま	あさ	アサ
夜干	やかん	からすあふぎ	ヒオウギ
楡	ゆ	にれ	ニレ
楊梅	ようばい	やまもも	ヤマモモ
蘿	ら	ひかげ	ヒカゲノカズラ
藍漆	らんしつ	(訓義不明)	タデアイまたはヤマアイか。またはモンテン
李	り	すもも	スモモ
栗	りつ	くり	クリ
龍膽	りょうたん	ゑやみぐさ	リンドウ
離留	りりゅう	ねあざみマタハやまうばら	シュロソウ
櫟	れき	なら	コナラ
連翹	れんぎょう	いたちぐさ	トモエソウ
蕗	ろ	ふふき	フキ
狼牙	ろうが	こまつなぎ	コマツナギ
狼毒	ろうどく	やまくさ	不明。ノコギリソウ･ノウルシ･シャク等の説有り。

なお、白歛(はくけん)は白薟(はくれん)の誤り、石■{草冠に斛}(せきこく)は石斛に同、■{草冠に吾}茄(ごか)は五加。